Part 5:「闇の契約と、残された光」
夢の中の空気が一変したのは、ダミアンの手元にある一通の封筒が現れてからだった。
まるで風が止まり、部屋の温度が数度下がったような感覚。
彼はそれをじっと見つめ、しばらく沈黙していた。
「これは、“契約”だ。」
そう口にした彼の声は、かすかに震えていた。
紙は古びた羊皮紙のような色をしていて、誰の名前も書かれていない。
けれど、その周囲に浮かび上がるように見えた紋章――それは、蜘蛛の意匠だった。
「私は、これに署名した瞬間から、“自由”を失った。」
「代わりに金が流れ込み、命が保証された。だが、選択肢は失われた。」
彼は、指でその紙の角を撫でながら続けた。
「やつらは、私の口から“偉大”という言葉を言わせた。
しかし本当は、“依存”の言葉だった。」
私はぞくりとした。
国民の喝采の裏で、彼の言葉は、“契約の宣言”だったのだ。
けれど、私は問いかけた。
「じゃあ、今からでも契約を破棄できないの?」
彼は黙っていた。
沈黙の中で私にはわかった。
破棄するには、**“代償”**がいる――命か、国家の未来か、どちらかが。
そのとき、彼がふとつぶやいた。
「君には、まだ“自由”がある。誰にも操られていない言葉を持っている。
もし、この話を綴るなら、どこかで誰かが読む。
“彼女の言葉は未来の地図になる”――そう、あの老婆が言っていた。」
老婆?と問いかける前に、部屋の奥に影が揺れた。
老女のような存在が、静かにこちらを見ていた。
その瞳は、時代を越えた記憶を宿しているようだった。
「あなたが見るこの夢は、すでに現実と地続きです。」
「選ばれたということは、“変化の種”を持つ者ということ。」
老婆はそう告げ、私の胸に手を当てた。
すると、胸の奥に光が差し込んだ気がした。
その瞬間、私は目が覚めた。
でも、夢は終わっていなかった。
彼の囁きがまだ耳に残っていた。
「もし、君の言葉が誰かの心に届いたなら――そこが希望の始まりだ。」
5/15
