Part 10:「動き出した記憶たち」
夢の中で私は、見知らぬ部屋にいた。
重厚なカーテンが閉め切られ、古いレコードの音がかすかに流れている。
部屋の中央には、かつての大統領官邸を模したような大きな机。
そしてその向かいに座っているのは――ダミアン・ストーン。
彼は私に気づいていた。
目をそらすことなく、真正面から私を見ていた。
「君は誰だ?」
低く、掠れた声。
でも私は、言葉よりも心に届けるようにして伝えた。
「私はあなたの中に残された記憶のひとつ。
あの頃、まだ純粋だった“志”の化身――忘れてしまったあなた自身の声。」
ダミアンの手が震えた。
それは怒りではなく、記憶が疼くような、懐かしい痛み。
「アメリカを本当に変えたかったんだよ…」
彼はぽつりと、独り言のようにつぶやいた。
一瞬、部屋の壁が揺れた。
書棚に並ぶ本が音を立てて崩れ、その間から一冊の古いノートが落ちる。
私はそのノートを手に取り、ダミアンの前に置いた。
中には、かつて彼が書いた政策のメモや演説の草稿――
“理想”という言葉を何度も書き連ねた痕跡。
「この頃のあなたは、まだ闇に触れていなかった」
私は静かにそう言った。
彼の目が潤んだように見えたのは、錯覚だったかもしれない。
だが、その一瞬、彼は確かに“昔の自分”に戻っていた。
「もう…遅い」
彼はそう言った。
私は首を振る。
「遅くなんかない。記憶は消えない。
あなたが忘れても、世界が見失っても――
本当の願いは、ずっとあなたの中にある」
ダミアンは沈黙のあと、ゆっくりとノートに手を伸ばした。
ページをめくるたびに、空間がわずかに光を帯び始める。
その光は、彼の心がまだ“救い”を求めている証。
私は目を閉じた。
その瞬間、部屋ごと風に溶けるように消えていった。
10/15
